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ソフトバンクと三井住友カードが語る提携の狙いとは――PayPayとの決済/ポイント連携やAI推進

左から、PayPay代表取締役社長執行役員CEO中山一郎氏、ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEO宮川潤一氏、三井住友フィナンシャルグループ取締役執行役社長グループCEO中島達氏、三井住友カード代表取締役社長執行役員CEO大西幸彦氏

 ソフトバンクと三井住友カードは15日、デジタル分野における包括的な業務提携を実施すると発表した。ソフトバンクのデジタルサービスと傘下のPayPayによる決済サービス、三井住友カードの総合金融サービス「Olive」「Trunk」がシームレスに連携し、双方のユーザーが互いのサービスをより便利に利用できるようになる。

できるようになること

 今回の説明会では、具体例として「Oliveでソフトバンクのヘルスケアサービスが利用できるようになる」ことや「ソフトバンクのAIソリューションを三井住友カードで活用すること」、そして「OliveとPayPayで相互に優遇、特典を提供する」ことの3点が挙げられた。

Oliveでソフトバンクのヘルスケアサービスが利用できるようになる

 1つ目は、三井住友カードのクレジットカード会員向けに、ソフトバンク子会社のヘルスケアテクノロジーズとヘルスケアポータルを新たに提供する。

 2025年度内にOlive会員は、ポータルを通じて日々の健康管理など24時間気軽に相談できる医療チャットや最短5分で利用できるオンライン診療などが利用できるようになる。三井住友カードの決済データをもとにユーザーの特性とニーズをAIが分析。たとえば、子育て世代にはこどもの健康管理サービスを提供したり、ほかのユーザーには美容医療やメンタルヘルスサービスを提供したり、ユーザーにパーソナライズされたものを提供していく。法人会員向けにも、健康経営を支援するサービスとしてパッケージ化していく。

ソフトバンクのAI活用

 2つ目は、ソフトバンクのAIソリューションやさまざまなデータを三井住友カードが多様な面で活用する。

 たとえば、三井住友カードのコールセンター(コンタクトセンター)について、ソフトバンクのAIを活用し、AIが直接応答する“AIコンタクトセンター”の取り組みを進める。現行の「オペレーターをサポートするAI」から「AI自身がユーザー対応する」自律型のコールセンターとすることで、24時間365日の電話対応を目指す。三井住友カードでは年間600万件の電話を受けるが、今後3年間を目処にこの半数以上をAIオペレーターにより対応していくことを目指す。

 また、三井住友カードがもつ購買データや属性データとソフトバンクの人流データを掛け合わせることで、加盟店向けに高精度なマーケティング支援ツールを展開する。たとえば、加盟店周囲の通行人情報と店舗で購入するユーザーの属性を掛け合わせることで、潜在的な顧客を分析し集客に繋げる、といったことができるようになる。決済支援だけにとどまらず、DXサービスの提供なども含め、加盟店を強力に支援できる施策を実施する。

PayPayと三井住友カードの優遇施策

 3つ目のPayPayとの優遇については、主にスマホ決済サービスの「PayPay」と三井住友銀行、三井住友カードとの間でユーザーがよりシームレスに利用できる環境を整備する。

PayPayで三井住友カードからの決済は利用料なし

 PayPayでは、コード決済の支払い元にクレジットカードを設定できるが、今夏以降PayPayカード以外のクレジットカード利用に際して、新たな方式による決済に切り替わることを発表している。新たな方式では、他社クレジットカードの利用に手数料が発生する場合があることが示唆されているが、今回の提携でANAカードなどを含む三井住友カード発行のクレジットカードは、利用料なしでの利用が継続される。

 会見では、ポイントの進呈条件などについては触れられなかったが、これまでどおり手数料なしで決済利用できるようになる。

OliveでPayPayサービスが利用できるように

 OliveのアプリでPayPayの残高確認や三井住友銀行口座からのチャージ、出金ができるようになる。

 さらにPayPay残高から三井住友銀行口座へ出金する際の出金手数料も無料になる。

 決済利用では、Oliveのフレキシブルペイの支払いモードに、新たに「PayPay残高からの支払い」が追加される。具体的には、PayPay残高から引き落とされるVisaのプリペイドカードが利用できるかたちで、実質的にPayPay残高が世界中のVisa加盟店での決済に対応するようになる。

VポイントとPayPayポイントの相互交換

 三井住友カードの決済などで貯まる「Vポイント」とPayPay利用などで貯まる「PayPayポイント」が相互交換できるようになる。より柔軟に“ポイ活”できるようになる。

実施時期について

 具体的な実施時期については、一部を除き発表されなかった(Olive会員向けのヘルスケアポータルなどは2025年度中)。

 一方、三井住友カード代表取締役社長執行役員CEOの大西幸彦氏は「2年~3年など始まるまで長期間かかることは考えていない。おおむね2025年度中には開始したい」とコメント。具体的なサービス内容は、追って発表されると思われる。

ソフトバンクの意義

ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏

 ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏は、今回の提携を「コード決済ナンバーワンと、クレジットカードナンバーワンの連合」と評価。たとえば、ヘルスケアポータルの取り組みでは、1つのアプリでさまざまなサービスが利用できるPayPayを例に出し、「Oliveアプリの中でヘルスケアが使えるようになる」と今後の発展を歓迎する。

 今回発表されたヘルスケアやPayPay以外にも、今後ソフトバンクのさまざまなサービスが順次Oliveのユーザーに向けても提供していく考えを示し「ソフトバンクにとっては、たくさんのデジタルサービスを提供する機会を得た」とコメント。AIコールセンターの取り組みにあたっては「三井住友カードのコンタクトセンターが、一番最初にAIエージェントを載せたコールセンターになるのではないか」とアピールした。

 「キャッシュレスナンバーワンの連合」と再び評価した宮川氏は、「キャッシュレスをもっともっと広げていきたい。この第一歩として大変意義がある提携だ」、「自社の進化したAIを社会実装する機会をもらった非常に意義のある提携」とその意義を強調した。

 PayPay代表取締役社長執行役員CEOの中山一郎氏は、ナンバーワン同士の連携に好感触を示した。特に、ポイントの相互交換にあたっては、ポイント自体の統合はしないものの、多くの会員数を持つVポイントユーザーをPayPayに囲い込めると期待させた。

PayPay代表取締役社長執行役員CEOの中山一郎氏

三井住友カードの意義

 三井住友カードは、2024年の買物取扱高は39兆円、カード会員数は年間500万会員、決済端末「stera terminal」は47万台を超えるなど、近年もさらなる成長を遂げている。Oliveのアカウント数も570万アカウントを超えており、順調な成長を続けている。

 SMBCグループ全体での意義を、三井住友フィナンシャルグループ取締役執行役社長グループCEOの中島達氏は「Oliveを起点とするリテールビジネスの進化」と「グループ全体のキャッシュレス戦略」を加速させるものになると説明。グループ全体でリテール事業の中核を担う三井住友カードとソフトバンクとの連携は、グループの戦略にとって大変意義のあるものだと評価する。

三井住友フィナンシャルグループ取締役執行役社長グループCEOの中島達氏

 三井住友カード大西氏は、今回の提携で同社の方針は変わることがないと説明。事業者目線ではなく、利用者目線から健全なキャッシュレス社会をリードするとした。大西氏は、現状を「多くのユーザーがOliveとPayPayを使い分けている現実がある」と分析。ユーザーニーズを「両方をスムーズに使えること」ととらえ、三井住友カードとPayPayが競い合うのではなく「PayPayは、三井住友カードと最も相性の良いコード決済」、逆に「三井住友カードは、PayPayと最も相性の良いクレジットカード」とし、「OliveとPayPayがあればキャッシュレスは万全」という社会を目指すと意気込んだ。

三井住友カード代表取締役社長執行役員CEOの大西幸彦氏

「宮川氏からヘルスケアの売り込み」がきっかけ

 今回の提携のきっかけについて、ソフトバンク宮川氏は「三井住友カード大西氏にヘルスケアサービスのセールスをしたことがきっかけ」と説明。ほかのMNO各社が銀行や証券と結びつき経済圏を強化する動きがあるが、三井住友フィナンシャルグループ中島氏は「ユーザー視点に立ってより便利なサービスを提供していきたいという考えの基」と指摘。宮川氏も、他社の動きを受けた提携ではないと否定した。

三井住友フィナンシャルグループ中島氏

 なお、PayPayにはPayPayカードやPayPay銀行など、三井住友フィナンシャルグループと競合するサービスが複数ある。「PayPayカードを諦めたのか?」の問いに宮川氏は「あきらめたわけではなく、契約数は増やしていきたい」と否定。「PayPayカードが三井住友カードほどの規模になるまでには20年~30年の戦いになる」とし、三井住友カードとの連携で規模の違いを補完したいと話した。

 ソフトバンクの料金プランへの影響について宮川氏は、ペイトクプランの特典提供などは「議論のスコープから外れているが、これから検討していきたい」とコメント。料金プラン改定にも言及し、ほかの収益が携帯電話のインフレに対応できるようであれば、値上げしなくても済むとし「値上げしなくてもいいなら、本当は値上げしたくない」とコメントした。

ソフトバンク宮川氏