石川温の「スマホ業界 Watch」
シャオミ、日本市場に「神風」──常設店オープンがもたらす飛躍
2025年3月31日 00:00
シャオミがこの春、日本市場で勢いづいている。
3月2日にスペイン・バルセロナで開催されたMWC 2025前日に「Xiaomi 15 Ultra」ならびに「Xiaomi 15」を発表。翌週の13日には日本向けの新製品発表会を開催した。
さらに3月22日は、埼玉県にあるイオンモール浦和美園店に日本で初となる常設店をオープン。そのまた翌週となる3月27日にはもう一つのブランドであるPOCOにおいて「POCO F7 Ultra」「POCO F7 Pro」を発表している。
4月5日にはイオンモール川口店にも2号店をオープンするなど、話題に事欠かない状態になっているのだ。
今回、特に驚いたのがイオンモール浦和美園店での反響だ。
初日の開店時には大行列ができ、その後も入店に対して規制ができるほど人が殺到した。店に入れないだけでなく、行列はイオンモールの外にまでできる始末。夕方になるまで入店規制は解除されることなく、20万円近い「Xiaomi 15 Ultra」も飛ぶように売れたようだ。
来店客のなかには大阪からわざわざやってきたという人もいるなど、単に近所の人が物珍しく集まってきたというわけではないようだ。
一部の商品の在庫が品切れになる中、クルマを飛ばし、別の場所から在庫を運んでくると言う状況にもなった。
実際、世界中にあるシャオミのストアで、初日においては世界ナンバーワンの売り上げを達成したという。
山根ハカセ(山根康宏氏)による1日店長、SNSでの拡散、天気が良かったなどさまざまな要因はあるが、オープン日の3月22日にターゲットを合わせ、MWCの発表から日本での発表会、その5日後にはXiaomi 15 Ultraを発売するという、シャオミ・ジャパンの戦略がピタリとハマった。
このイオンモール浦和美園店での盛況ぶりは、シャオミ・ジャパンにとってまさに「神風」と言えるのではないか。今後の展開にかなりプラスの効果を発揮するものと思われる。
そもそも、イオンモールでこれだけ集客力のあるテナントというのは相当、珍しいだろう。ショッピングモールにとって、人を集めることのできるブランドは重要だ。目的の店を訪れた後にはスーパーで食材を買ったり、レストランで食事をしたりと、さまざまな店舗でお金を落としてくれる。
これまで日本市場で「シャオミ」といえば、オンライン販売がメインで、スマートフォンに興味がある人ぐらいしか知らない認知度の極めて低いブランドであった。
しかし、今回、シャオミの店舗が人を呼べるブランドであり、相当、ポテンシャルが高いことがイオンモール関係者に認知された。今後、全国のイオンモールで、空きスペースが出たら、真っ先にシャオミに声がかかるのではないか。
シャオミとしては、イオンモールを味方に全国展開がかなりやりやすくなるだろう。
実は全国のイオンモールにはイオンモバイルだけなく、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなどのキャリアショップも入っていたりする。今後、シャオミの店舗とそれらのキャリアショップが協力し「シャオミの店舗でスマートフォンを購入し、すぐにキャリアショップに持ち込み、MNP契約すると2万円分のポイント付与」なんて割引施策ができると面白いことになりそうだ。
今のシャオミはソフトバンクとKDDIに安価なモデルをラインナップとして揃えてもらっているが、Xiaomi 15 Ultraといったハイエンドモデルはメインのランナップにはなっていない(au +1 collectionでXiaomi 14 Ultraの扱いはあるが)。
シャオミがイオンモールに店舗を出し、幅広いスマートフォンのラインナップだけでなく、さらに家電なども売れるようになり、ブランド認知が広がれば、キャリアのシャオミに対する評価も変わってきそうだ。
ミドルクラスだけでなく、高性能なSoCを搭載したハイエンドスマートフォンが売れるとなれば、結果として、データ通信を大量に行うため、使い放題プランを契約する傾向も強くなる。
シャオミのハイエンドスマートフォンがキャリアで扱われるようになれば、シャオミ、キャリア、そして割引施策の適用を受けられるユーザーにとってもハッピーなのではないか。
もちろん、今後、シャオミの店舗が増える上で、シャオミが克服しなくてはいけない課題もある。シャオミの店舗はスマートフォンだけでなく、タブレットやイヤホン、さらにはテレビや掃除機、フライヤー、炊飯器などの家電製品、さらにはスーツケースなどを揃える。グローバルでは今年、冷蔵庫やエアコンも手がけるという。
シャオミの店舗に立つスタッフは、それら、すべての商品知識を持っている必要があるし、さらに競合メーカーの製品と比べての優位点もアピールできないといけない。
全国にショップを展開する中、そうしたスキルを持つスタッフを育成する体力を持っていないといけない。
ただ、シャオミの店舗では、天井にカメラが設置され、どんな客が来店し、どのように店舗内を回遊しているかの分析を行っているという。また、店舗の売り上げデータはすべてスタッフが持つスマホのアプリで確認できるだけでなく、世界中の店舗の状況もチェックできるとされている。
シャオミは日本で店舗を出したことで、日本のユーザーがどういった製品に興味を持っているかを把握できるタッチポイントを手にしたことになる。もちろん、客がスタッフに対して述べた感想やクレームなども日本法人だけでなく、本部に吸い上げられていくだろう。
今回、日本で常設店を出すというとてつもなく高いハードルを越えたシャオミは日本市場で、ますますユーザーの事を理解した製品ラインナップや戦略を打ち出せるようになりそうだ。