石野純也の「スマホとお金」
ドコモ「home 5G」が料金値上げへ、競合他社の類似サービスと比較する
2025年4月3日 00:00
ドコモは、7月に「home 5G」の料金を改定することを発表しました。これまでは値下げ一辺倒だったケータイの料金ですが、なんと今回は、値上げに踏み切ることになりました。しかも、すでに契約しているユーザーの料金も、自動的に値上げされます。現行の料金は4950円ですが、7月1日からは5280円になります。
値上げの理由について、ドコモは「サービスを安定的にご提供するために必要な運用コストが高騰」しているため、としています。実際、電気代や人件費など、キャリア各社が基地局やコアネットワークを敷設、運用するためのコストは上がっており、各社とも決算説明会などで幹部が値上げに対する“におわせ”をしていましたが、それが現実のものとなりました。
これによって、ドコモの収益はどう変わっていくのでしょうか。また、他社のhome 5Gに相当するCPE(ホームルーターなどとも呼ばれる、モバイルネットワーク対応の家庭内ルーター)の料金プランと比較した際に、値上げで競争力はどの程度維持できるのでしょうか。値上げによる影響を考察するとともに、改めて他社との比較も行いました。
約3年半で120万回線を突破、値上げで増えるドコモの収入は?
「home 5G」は、光回線(FTTH)が引きづらい環境や、一人暮らしなどでわざわざ光回線を必要としない人に向けたサービス。スマホと同じモバイルネットワークを、固定回線的に利用するためのもので、CPEとセットで加入できる料金プラン。スマホの料金プランとは異なり、データ容量などの選択肢はなく、基本的には無制限一択になります。
5Gと銘打たれているものの、実際には4Gにも接続可能。むしろ、ドコモはSub 6を中心に展開していることもあり、高い周波数の電波が届きにくい室内では、4Gをつかむ方が多いかもしれません。現状の料金は4950円ですが、7月1日にはこれが330円上がり、冒頭で述べたように5280円になります。
ドコモはコストの高騰を理由として挙げていましたが、元々、使い放題の料金プランである eximoと比べても料金は安めでした 。eximoの料金は各種割引適用前で3GB超が7315円、家族3人以上で契約し、かつ料金をdカードで支払っても6020円かかります。使っている回線はモバイルながら、どちらかと言えば、光回線などに近い料金設定だったと言えるでしょう。
工事不要で設置でき、料金も競争力があるということもあり、home 5Gは順調に契約数を伸ばしていました。サービス開始初年度にあたる21年度の契約数は28万8000回線。2年目の22年度には、66万4000回線と、ユーザーが急増しています。23年度には大台である100万回線を突破し、106万5000回線にまで増加しました。直近では、24年度の第3四半期に128万2000回線まで伸びています。
これによる収入は、単純計算で1カ月あたり63億4590万円。1年に換算すると、761億5080万円にものぼります。ただし、home 5Gは3年分割の端末が実質無料になる「月々サポート」が適用されます。スマホと違い、端末購入補助規制の対象外になっているため、7万円近い本体価格を丸ごと割り引くことが可能というわけです。そのため、ドコモにとってはこれもコストになります。逆に言えばユーザーが使い続ければ使い続けるほど、収益性は高まるということです。
値上げ幅は330円のため、24年度第3四半期の契約者数である128万2000回線をそのまま当てはめると、1カ月あたり、4億2306万円、収益が上がる格好。1年間で、50億7672万円の増収になります。これで高騰したというコストをすべて吸収できるかどうか分かりませんが、少なくとも、安定して事業を運営するには、年間で50億円程度、収入を増やさなければいけなかったことが分かります。
他社のCPE向けプランはどう? KDDIは割引で13カ月間安い
では、値上げによって競合との差はどの程度になるのでしょうか。
KDDIは、ドコモのhome 5Gに近いプランとして、「ホームルータープラン5G」を用意しています。端末も、ドコモと同様「毎月割」で実質無料に。KDDIの「Speed Wi-Fi HOME 5G L13 ZTR02」は本体価格が5万円弱と、ドコモより割安ですが、3年間でこの端末代が丸々割り引かれる形です。
肝心のホームルータープラン5Gは、ドコモとは異なり、13カ月間、「5Gルーター割」を提供しています。割引額は550円。これを適用すると、契約から 13カ月間は4620円 になり、値上げ後のhome 5Gプランはもちろん、現行のhome 5Gプランより安価に維持することができます。一方で、割引が切れると “素の料金”である5170円 がそのままかかります。
この価格設定は絶妙で、現行のhome 5Gプランより高く、値上げ後のhome 5Gプランよりも安いといった具合です。ドコモにとって競合であるKDDIが5170円でホームルータープラン5Gを提供している以上、多少値上げしたところで競争力は落ちないと判断した可能性があります。KDDIと同額にそろえる手もあったはずですが、契約者数の伸びに多少ブレーキをかけてもいいと考えたのかもしれません。
また、KDDIのホームルータープラン5Gは、スタンダードモードとプラスエリアモードに分かれており、利用できる周波数帯に違いがあります。具体的には、前者だと、帯域幅の少ない800MHz帯のプラチナバンドが含まれていません。料金に違いはないものの、後者のモードだと毎月のデータ容量が30GBに制限されます。
地方でプラチナバンドしか入らないといったエリアで使う場合、これだと固定回線の代替にはならない可能性も。
対するドコモのhome 5Gは、特に周波数の制限はなく、一律でサービスが提供されています。ドコモが値上げするにあたっては、こうした点も加味した可能性があります。
ソフトバンクは新端末で割引縮小、料金競争は停滞気味か
CPEの分野を切り開いてきたのはソフトバンクの「SoftBank Air」ですが、こちらも、スマホとは異なる料金体系でサービスが提供されています。
月額料金は、5368円 。端末であるAirターミナルの料金は「月月割」で実質無料になり、毎月の通信料だけがかかる形になっています。余談にはなりますが、3社とも、CPEでは以前のビジネスモデルや割引がそのまま残っているのがおもしろいところです。
ソフトバンクも期間を区切った割引を提供しています。ただし、割引は選択する端末によって異なります。21年に発売された「Airターミナル5」には、「SoftBank Air みんなおトク割」を用意。こちらは割引額が2398円と大きいのが特徴で、割引期間は24カ月間になります。 2年間は、2970円 で利用できるというわけです。
一方で、24年11月に発売された「Airターミナル6」では、「Airターミナルデビュー割」が提供されます。こちらは割引額が418円と小さい代わりに、割引期間が4年に増えています。ただし、総額では5万7552円引かれるAirターミナル5に対し、Airターミナル6では2万64円まで額が縮小しています。 4年間の料金は4950円、49カ月目からは5368円 になります。
あくまで割引の変更ですが、値上げになるのも確か。その意味では、ソフトバンクが先行して値上げに踏み切っていたと捉えることもできそうです。
ただし、ドコモとは違い、端末の入れ替えに合わせており、料金改定の仕方としてはこちらの方が王道。既存のユーザーへの影響はありません。また、どちらでも割引終了後は5368円に料金が上がり、値上げ後のドコモの料金より高くなります。
料金の安さが売りの楽天モバイルも、 CPEの「Rakuten Turbo」向けプランは、4840円 に設定しており、これなら「Rakuten最強プラン」のSIMカードをルーターに挿した方がいいのでは……という金額になっています。ルーター代は他社同様、無料になるものの、こちらも光回線に合わせた料金体系になっていると言えるでしょう。現行のドコモよりリーズナブルな一方で、差分も小さくなっています。
ドコモがhome 5Gを値上げに踏み切れた背景には、スマホ向けの料金に比べ、価格競争が進んでいないという事情もありそうです。