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ソフトバンクと科学大、遭難者をWi-Fiで探すシステムを発表
2025年6月9日 17:39
ソフトバンクと東京科学大学 工学院 電気電子系 藤井輝也研究室は、Wi-Fiを活用し、遭難者の位置をより高精度に特定するシステムを発表した。このシステムは、従来のGPSによる大まかな位置特定システムと組み合わせることで、遭難者の位置を数m単位で特定することを目指している。
Wi-Fiを活用した高精度特定システム(2次特定)の導入
GPSによる位置特定でも捜索時間の大幅な短縮は実現できるが、現場からはさらに精度の高い、半径1〜2m程度のピンポイント特定が求められている。そこで、ソフトバンクと科学大は、携帯端末に搭載されたWi-Fi機能を活用し、GPSで特定された10〜20平方mの範囲を、Wi-Fiで1〜2平方mに絞り込むシステムを開発した。
このシステムでは、遭難の可能性がある人が事前に専用アプリを携帯端末にインストールし、危険エリアに入る際にアプリを起動しておくことが前提となる。捜索者側は、Wi-Fiアクセスポイント、探索用モバイル端末、Wi-Fi指向性アンテナを組み合わせた専用装置を使用する。アンテナを回転させると、遭難者の端末が電波を受信し、その信号強度(RSSI)をアプリ経由で探索装置へ返送。
電波強度の最も強い方向を割り出し、3〜5m進んで再度方向を確認するという作業を繰り返す。設定したしきい値以上の電波強度を検知すると、ブザーが鳴り、遭難者が1〜2m以内にいることを通知する。
携帯端末のWi-Fi送信出力は10mWと低出力だが、積雪1〜3m・含水率1〜3%の雪中でも、10m程度であれば問題なく通信可能と見込まれている。科学大グラウンドで行われた実証実験では、紙袋内に隠した端末を、捜索者が最短2〜3分、遅くとも10分以内に発見することに成功した。
今後の展望と課題
ソフトバンクはこれまで、東京工業大学と共同で、携帯端末のGPS情報を活用した遭難者位置特定システム(1次特定)を開発。圏外エリアでもドローンや衛星通信で電波を中継し、一時的に圏内化することでGPS情報を取得・共有する仕組みを構築してきた。
今回の2段階式システムでは、現場到着後にGPSで大まかな位置を特定し、その後Wi-Fiシステムによって、わずか10〜20分で数m単位まで絞り込むことが可能となり、遭難者発見の迅速化に大きく貢献すると期待されている。主な利用対象は消防・警察などの捜索隊を想定している。
一方、実用化には課題も残る。例えば、ドローンによる電波中継は、現状では緊急時を除き自由に飛行できず、商用運用には法整備が不可欠。また、現在のGPS中継システムはソフトバンク回線専用で、他キャリア端末の電波は中継できない仕様。今後、他キャリアも同様のシステムを導入すれば、全国での運用が実現する可能性がある。
Wi-Fiを活用した2次特定システムは、携帯電波を使用しないため、単独運用での自由度は高く、システム完成度も高いとされる。ただし、GPSシステムとの併用がより効果的であり、瓦礫や土中に埋まった場合には、雪中より電波の減衰が大きく、特定が難しくなる可能性もあると指摘している。