インタビュー

「シャオミだからできたコラボ」、グランツーリスモ登場の舞台裏を創業者山内一典氏に聞く

 ドライビングシュミレーター「グランツーリスモ」シリーズを展開するポリフォニー・デジタルと、スマートフォンを中心にスマートデバイスを日本を含む世界各国で販売してるXiaomi(シャオミ)は6月7日(現地時間)、ロンドンでパートナーシップを発表した。シャオミの最上位電気自動車(EV)である「SU7 Ultra」が、今後「グランツーリスモ7」に登場する。

ポリフォニー・デジタルとXiaomiがパートナーを発表

 両者のパートナーシップはどうやって実現したのか、グランツーリスモの創始者でありポリフォニー・デジタル代表取締役プレジデントの山内 一典氏と、Xiaomi EVのチーフテストドライバー兼車両性能開発責任のZhoucan Ren氏に話を伺った。

自動車作りを愛しているXiaomiと協業

――今回、グランツーリスモとXiaomiがコラボレーションすることになった経緯を教えてください。

山内氏
 事の始まりは私がポリフォニーデジタルの中国スタッフに「今、中国の自動車メーカーで一番面白いのはどこ?」と聞いたら、「それはXiaomiだ」と言われたんです。

 そこでXiaomiにメールを送りました。そのすぐ後に私は上海のF1グランプリ(注:2024年5月21日開催)に行ったのですが「山内さんが上海にいるなら、北京からすぐ行きます」とXiaomiからレスポンスをいただきました。

 翌日にはXiaomiのエグゼクティブが本当に来てくれ、そのレスポンスの速さにも感動しましたし、彼らの好奇心や情熱、勤勉さが話していてすぐに伝わってきました。「これはなんだかすごい会社に出会った気がすると」感じたのです。これがコラボレーションの始まりでした。

ポリフォニー・デジタル代表取締役プレジデントの山内一典氏

――グランツーリスモはこれまで歴史ある自動車メーカーと多く仕事をしてきました。今回、Xiaomiという新しい会社と仕事を行い、何か違いを感じましたか?

山内氏
 Xiaomiの皆さんは車作りを始めてまだ日が浅いですが、本当に車を愛し、楽しんでいる感じが強く伝わってきました。

 最新テクノロジーを使って「車をどう面白くできるか」を純粋に追い求めていて、それを実現しているのが新鮮でした。

 Xiaomiの車も、街中を走る車とサーキットを走る車を区別せず、両方を一つのものとして捉え、さまざまなテクノロジーを投入しています。心底を車作りを楽しんでいるという点が、私にとって、ある種の驚き、新鮮でした。

――今回のコラボレーションで、両社が目指す目的や意義は何でしょうか?

山内氏
 一番大きいのは、フィロソフィーやスピリットが共振したことですね。たとえば利害損得のためのコラボ、というものではありません

Ren氏
 私たちは自動車業界で存在感を高めたいという思いがありました。また同時にグランツーリスモに収録されることで、ハイパフォーマンスや最新テクノロジーに興味があるファンとのエンゲージメントを高めたいと考えてました。

Xiaomi EVのチーフテストドライバー兼車両性能開発責任のZhoucan Ren氏

常識破りのEV、SU7 Ultraに驚き

――山内さんは実際にSU7 Ultraに乗られたそうですが、いかがでしたか?

山内氏
 とにかく驚きました。

 トラックで全開で走っても何ともないEVが存在すること自体が新鮮でした。ブレーキの効きやボディ剛性などトラック走行にも耐えられる設計で、加速Gも減速Gも横Gも同じくらい、1.4Gが出る市販車は初めてで、頭を切り替える必要がありました。

 ブレーキと同じパワーで加速できる車は普通ありません。

――ゲーム内ではSU7 Ultraはどれくらい再現されていますか?

山内氏
 実はまだSU7 Ultraの搭載は完了しておらず、開発を続けているところです。ですが正確に再現できると思います。

――SU7 Ultraのプロトタイプはドイツ・ニュルブルクリンクで記録を打ち立てましたが、その背景を教えてください(注:2024年10月28日にニュルブルクリンク北コースで6分46秒874を記録、7年ぶりに4ドアセダン最速記録を更新)

Ren氏
 SU7 Ultra Prototypeは記録を打ち破るためのプロトタイプ車でしたが、量産車のテクノロジーを使いました。

 一番フォーカスしたのはできるだけ重量を減らして性能を上げることだったのです。実際にテスト走行してみると、加速と減速の能力が量産車より大きく向上していました。

 ただ、ニュルブルクリンクは混雑したサーキットで、記録を出すタイミングを見つけるのに1カ月かかりました。そしてその一瞬のタイミングで記録を出さなくてはならず、なんとかあのタイムを出すことができたのです。

世界最速4ドアセダンとなったSU7 Ultra Prototype

山内氏
 ビデオを見ましたがコンディションは万全でなく、ウェットパッチがある状態でのタイムでした。完全なドライならもっと良いタイムが出たはずですね。

XiaomiのEV製品搭載拡大にも期待

――ポリフォニーとXiaomiとのパートナーシップは1回限りですか? ブランディングされたゲームモードや、イベントが開催されるとか、今後の展開はありますか? 山内氏  パートナーシップは1回限りではなく、長期的なものです。 ――今後、他のXiaomiの自動も今後ゲームに登場する予定はあるのでしょうか? 山内氏  私自身が北京のXiaomiを訪問した時に、最新モデルのYU7を見せてもらいました。かっこいい車ですし、いずれグランツーリスモにも登場するでしょう。 ――SU7 Ultraはどのような形でゲーム内に登場しますか? 山内氏  カーマニファクチャブランドとして「グランツーリスモ7」にXiaomiが収録され、ディーラーシップで購入できるようになります。
SU7 Ultraはグランツーリスモ内で購入可能になる

テスラやアップルでも成しえていないXiaomiのエコシステム

――Xiaomiの自動車以外の製品、たとえばスマートフォンとグランツーリスモがコラボレーションする予定などはありますか?

山内氏
 今のところは自動車だけのパートナーシップです。

 ただ、Xiaomiのビジョンはとても広く、北京でCEOのレイ・ジュン(雷軍)氏ともお会いしましたが、携帯もタブレットもウェアラブルも家電も車も、全て同じOSとAIが動くという困難な構想に向かい、それを実現しようとしています。

 これはテスラもアップルもグーグルもまだ実現していません。

 Xiaomiは単なるスマートフォンメーカーではなく、これまでの常識では考えられないことに向けて進化を進めている、ユニークな企業であると感じました。今後コラボレーション拡大の可能性も十分あるでしょう。

Xiaomiはスマホメーカー以上の存在だと語る山内氏

――グランツーリスモ7にSU7 Ultraが登場することは、欧米におけるXiaomiのブランドを広げる大きな役割を果たすと思います。グランツーリスモを開発した当初のころ、このように業界や市場に大きなインパクトを与えるものになると想像していましたか?

山内氏
 このような質問はよくされるのですが、最初は実験的なタイトルとして作っただけで、今のような未来は想像できませんでした。

 それこそ、ただ好奇心の赴くまま「一生に一回ぐらい、こんなビデオゲームを作りたいな」と思って始めたのがグランツーリスモなのです。

Ren氏
 車は私たちの戦略で重要なポジションにあります。

 我々は「人間と車とホーム」をセットにしたエコシステムを考えており、グランツーリスモとのコラボは、世界のユーザーにXiaomiの技術力を示す良い機会になると思います。

 また、我々は2027年に向けて世界の自動車市場参入を目指しています。今回のパートナーシップはそれに向けたマイルストーンの1つになります。

――SU7 Ultraをグランツーリスモ7のサーキットで走行できる日が来るのが楽しみです。ありがとうございました。