本日の一品

思考をリブートする“フィジット・キー・トイ”進化論
2025年6月9日 00:00
今から7年ほど前、筆者が友人たちとともに立ち上げたクラウドファンディング企画の「KACHA」は、考えごとをする時に指先をカチャカチャと動かすことで、リラックスしながら気分を切り替えるオタク向けの“指先ガジェット”だった。
Makuakeでの目標達成は早く多くの支持を集めたが、我々の関心はすぐに次のプロジェクトへと移っていった。もちろん今もMakuakeで購入可能だ。
製品名の「KACHA(カチャ)」は、Ctrl+Alt+Delを同時押しするIBMパソコンのリブート操作にちなんで「人生の再起動」を意味している。
その後、ふと通販サイトの“temu”を眺めていた時、今度は12個のキースイッチを持つ球状のフィジットトイを発見した。構造は似ていても目的は少し違いそうだ。本稿では、そんな“進化形カチャ”の「正12面体フィジットキー」を紹介してみたい。
ここ数年、“フィジットトイ”というカテゴリーが静かなブームになっている。フィジット(fidget)は「そわそわする」「手持ち無沙汰で指を動かす」という意味で、ストレス軽減・集中力向上などを目的とした大人向け玩具として確実に市民権を得つつある。
特に今回紹介するのは、12個のメカニカルキースイッチが立体的に配置された球体フィジット。すべてのスイッチが同じ仕様で、カチャカチャと心地よい打鍵音と確かなクリック感を伴って反応するよう設計されている。
指先で押す・回す・連打するという動作に対して一貫した感触が得られ、無心になって没頭するには十分すぎるギミックだ。
よく似た感じの製品には、特性の異なる種類のスイッチを碁盤の目のように並べて打鍵感を比較する「キースイッチテスター」がある。
どちらかと言えば、主に自作キーボード愛好家向けに用意されたものだ。押下圧やクリック音等の感覚の違いを試すための道具である。本製品とは目的も設計思想も異なるものだ。
そもそもフィジット文化の源流は、2000年代の“ペン回し”や、2010年代に大流行した“ハンドスピナー”にあるようだ。日本の中高生が授業中にやっていた癖の延長に過ぎないが、アメリカの教育現場では“集中力を高める補助ツール”として扱われたことで、玩具業界もこぞって製品化に乗り出した。
そして、忘れてはならないのが“プチプチ潰し”だ。正式には気泡緩衝材だが、手元にあればつい潰してしまうあの感覚は、全世界共通の“無目的な快楽”として長らく愛されてきた。
押すことで得られる微かな抵抗感と破裂音、それによってもたらされる“ちょっとした達成感”が、フィジットトイの根本原理と見事に一致している。プチプチ風の玩具やアプリまで登場しているほどで、これもフィジット文化の立派な祖先といえる。
今回の正12面体フィジットキーは、特に“触覚”と“聴覚”の両方を心地よく刺激する点で優れており、オフィスや自宅のデスクに一つ置いておけば、会議中の緊張やアイデア出しの停滞時にも良い“逃げ場”になってくれる。
見た目のインパクトも強く、ちょっとした話題作りにも最適だ。キートップカバーのカラーバリエーションも豊富だ。
人間が何かを真剣に考えるとき、頭とは無関係に指先が勝手に動いていることがある。これは自然な脳の分散処理であり、クリエイティブな活動を支える陰の主役なのかもしれない。
KACHA、ハンドスピナー、プチプチ、そしてこの正12面体フィジットキー(筆者的には短く「多面体カチャ」と呼びたい)は、いずれも“指先で考える”時代の象徴的な存在なのだ。
この種のデジタルになりきれないアナログ系ガジェットは、特にデジタルネイティブではない40代以上の世代にも歓迎される要素を多く含んでいる。スマホやパソコンで疲れた指を、かつてのタイプライターやメカニカルキーボードの感覚で癒してくれる。
人類が悩み続け、考え続ける限り、フィジットトイは進化し続けるに違いない。最後に元祖KACHAと仲間たちの記念ショットを撮ってみた。
製品 | 発売元 | 実売価格 |
---|---|---|
正12面体フィジットキー | temu | 434円 |